~ステロイド外用薬の強度~
ステロイド外用薬の種類と効果について解説しています。ステロイド外用薬は炎症を抑え、強度によって5段階に分けられています。ステロイド外用薬は第一選択の薬とはなりませんので慎重に使用するべきです。また、剤形によって違いがありステロイド離脱によるリバウンドもあります。
~炎症を抑えるステロイド外用薬~
ステロイドは、本来は体内の副腎皮質から分泌されるホルモンの一種です。つまり、もともと私たちの体内にあるものです。
しかし、副腎皮質ホルモンは、身体の外から塗布や投与の形で補われると、逆に体内のホルモンが分泌しなくなる傾向があるということが一般に知られるようになりました。
ところで、医師が副腎皮質ホルモンを処方するのは、様々な刺激によって炎症がおこったとき、その炎症がそれ以上ひどくならないようにするために、主に抗炎症作用や免疫抑制作用を期待して、用いるようです。
~第一選択の薬とはならないステロイド~
アトピー性皮膚炎の電話相談のうち、半数近くは乳幼児期の子供を持つお母さんからの相談ですが、残りの半数は成人型のアトピーの人からのものです。そのうち8割近くの人が、ステロイド外用薬の連用による副作用や、突然に使用を中止したためにおこるリバウンドの後遺症に苦しんでいます。
それらの現状をふまえて、小児期のステロイド外用剤の塗布指導を振り返ってみると、炎症をすばやく抑えるというステロイド外用剤の使用を第一選択とした治療方針の決定のしかたは、はたして妥当なものであるのかどうか、臨床の現場での議論が待たれるものだと感じています。
医療従事者でもないわたしたちが、あえてその立場を超えてこのようなことを発言せざうを得ない背景には、ステロイド外用剤の連用によって症状が重篤化してしまったり、使用中止によるリバウンドを経験する乳幼児の相談が相談窓口を開設して以来、いまだあとをたたないという現状があるようです。
~強度によって5段階に分けられる~
アトピー性皮膚炎の治療に使われるステロイド外用剤は、その強弱を5段階に分類することができます(下の表を参照)。
全身の皮膚は同じように見えて、実は部位別に薬の吸収率が違います。顔面や陰部は特に吸収率が高いので、薬を塗布する場合は、薬剤の種類や強弱、量などの決定は慎重に行わなければなりません。
~慎重に使われるべきステロイド外用剤~
塗り薬を使用している人に薬の名前を尋ねてみると、ほとんどの人が「ラベルがはがしてあるので、なんの薬かわからない」と言います。どのくらいの量をいつまで塗るのかという質問に対しても、「わからない」し、「不安だ」と訴えられます。
医師から「とりあえず塗ってみて、様子をみましょう」と言われ、チューブの薬を何本か出され、塗り終わっても症状が出たりひっこんだりしている。不安になったお母さんは、二度とその病院へ行かず別の病院にかかり、同様な処方を受け、同様に塗り続ける・・・このような姿は、決して特殊なケースではありません。それだけで6週間を費やし、薬がなくなったとたん、ひどい症状にみまわれたという人も実際にいます。
薬は必要なときに必要な分量を適正に使用できれば、それにこしたことはありません。しかし、人の身体には個性があり、特にアトピー性皮膚炎という疾患は、原因が多様ですし、症状の経過も多彩です。そのうえ、短い診療時間の中で、短い会話をかわし、医師が、診断に必要な症状や経過などの情報を患者から十分引き出せないまま、また、患者にとっては、医師が何をどう判断し、何をしようとしているのかわからないまま、手元に薬だけがあるという状況は、双方にとって、残念で不幸な結末です。
アトピー性皮膚炎の治療について考える時、薬剤投与(塗布)中心の治療の困難さは、こんなときに顕在化するのだと思います。
そして、ステロイド外用剤の剤形や、リバウンドについて患者と医師の関係について明確に述べている文章があります。
~剤形によって違いがある~
ステロイド外用剤の剤形には、軟膏、クリーム、ローションなどがあります。これは、主剤を溶かす基材による違いです。
軟膏は、乾燥しがちな皮膚に合うためよく用いられますが、小水疱ができている皮膚には向きません。また、季節や生活によって汗をかきやすい場合は、軟膏をつけた部位に熱がこもるために症状が悪化することがあります。
クリームは、皮膚に刺激を与える場合があります。用いる時には、経過をよく観察する必要があります。
ローションは、軟膏やクリームに比べ、効き目がおだやかなので、症状が重い場合には向いていません。頭髪部や陰毛部などに塗布しやすい剤形です。
~ステロイド離脱によるリバウンド~
長期連用してきたステロイド外用剤を急に中止した場合、症状が元来の状態以上に「跳ね返った」ように悪化する現象をリバウンドと呼びます。
なぜ、このようなことがおこるかというと、薬に依存していたために副腎機能が低下し、そこへ急に薬を中止したため、従来なかった症状までが激しく出現するのではないかといわれています。
ステロイド離脱、つまり急にステロイド外用剤を中止するのは、次のような事情によります。
①患者が自由意志で離脱を希望する。
②不慮の事態(たとえば阪神・淡路大震災のような場合)で強制離脱になる。
③医師あるいは薬剤師の判断で離脱をすすめる。
最近多いのは、①の場合です。これは、ステロイド外用剤の副作用についての情報がゆきわたった結果ともいえます。やむにやまれずという心情からなのでしょうが、行為としては無謀ともいえます。
そもそも、なぜ長期連用がされるのでしょうか。その背景には、いったん医師のもとで治療が始まると、治療過程での症状の悪化は「医師のせい」にされてしまうのではないかという、医師の思い込みがあるようです。また、実際に、このようにとらえる患者や家族が多いのです。
そのため、医師はそれを避けようとして、特に悪化する場合でなければ、一度使い始めた薬を使い続ける傾向にあるのです。
薬をやめることには、たいへんな勇気と患者との信頼関係がいるのですが、それを回避して治療を進めていくうちに、結果的にだらだらと薬を使い続けてしまうという例がたいへん多いようです。
ステロイド外用剤は、使用にあたっても、中止にあたっても、慎重な取り扱いが必要な薬であるということを、医師と患者が互いに十分に認識することが大事といえます。そのためには、相互の信頼関係が不可欠です。